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2008年6月15日 18:00

伽藍でもバザールでも関係ねえから運用に必要な情報は伝えていこうぜ、ていう話

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市川せうぞーさんが、Illustrator CS3のPDF出力の入稿を断られたという話。

枯れて候 - 名もないテクノ手 [d.hatena.ne.jp]

過日、印刷会社さまにPDF入稿した時、「InDesign CS2までなんです。CS3は勘弁して欲しい」と言われた。「なんでやねん!」と言いたい気持ちをぐっと押し殺して、わたしも少し大人になった気分だ。

これに対する僕の論の要点は、開発形態がどーたらではなくて、必要な情報が必要な人に行き渡るようになっていないから、せうぞーさんがPDF出力断られるような事態になっているんだ、ていうことです。


Eric S. Raymondのオープンソース三部作のひとつ「伽藍とバザール」に、「はやめのリリース、しょっちゅうリリース」という節がある。

http://cruel.org/freeware/cathedral.html#4

これは(オープンソースでの)プロダクトの品質が高まる過程で、十分な目玉(テスター)によってバグが発見され続けるフェーズを指している。こうしたフェーズを経ることで「バザール方式」は「伽藍方式」よりも品質が高まるという論調だ。

つまり、開発バージョンで徹底的にバグフィックスを行うことで、安定板の品質を担保していると言える。Unixアプリケーションの多くはこうした時間を経て(多くの目玉によって十分に検討されて)、「枯れている」という評価を得ることになる。

現在もこうした方法が取れているのは、やはり「バザール方式」でしかない。「伽藍方式」では、密室裏に(少ない目玉で)開発された「製品」を唯々諾々として「使わせていただく」ほか手だてがないのだ。つまり、現在のAdobe製品をはじめとする商業的プロダクトは「枯れている」状態にはならない。決して。

Illustrator 8を例に出すと、プロプライエタリな製品、かつ寡占状況で標準的な製品として流通量が多かったため、バザール方式で見つけられた不具合を、回避方法という形で蓄積していったわけで、いまのIllustrator8鉄板神話は、形は違えどもバザール方式の成果です。

もっとも、Illustrator 8が、運用で問題を回避できるほどの素直な子だった点はあると思います。Illustrator 9は、同様にみんなでよってたかって使ってみた結果、どうにもならない部分があって、ほとんど使用禁止の評価がされています。

情報は永遠に変わらないURIにとどまっていない。情報の書かれたブログはやがて閉じられ、サイトは移動する。たとえば、QXなんとかの情報が最も蓄積していたのはニフティサーブのフォーラムだったが、既に一意のURIを失っている。わたし個人のサイトでさえ、すでにQXなんとかの情報を排除して久しい。

それは情報の生命力が弱いから。情報は、媒体という宿主を介在して、自己複製・増殖していくものなのであって、本当にみんなに必要な情報なら、宿主をかえてどんどん伝搬していくのだけれども、いまQuarkXPressの情報がロストさつつあるというのは、QuarkXPressの情報の価値(=生命力)がどんどん下がり続け、別の宿主に乗り換えできるほどの生命力がなかったからです。情報伝搬の阻害要因であるNifty-Serveの書き込み引用・転載制限、または市川せうぞー氏のモチベーション低下、というのがなければ、もうちっと生きながらえていた可能性だってあります。

あと人間という宿主の高齢化も指摘しておきます。死んだらロストするという、情報にとってはリスキーな宿主です。しかも、この業界は、情報伝搬のメインが人間という、本当に情報処理に携わる業界のあり方としてこれでいいのか、という状態ですし(再三言っていますが、この業界の人、DTP書籍など買いません)。

QuarkXPress 3.3Jあたりの運用情報は、もはや人間の口述伝承によっているのだと思いますが、Illustrator 8もその要素が多分にあり、運用している人の数が減れば、情報もロストしていく運命にありそうです。

今の時代、情報はインターネットに出しておけば、googleはキャッシュし、Wayback Machine [www.archive.org] がアーカイブするのですから、どんどん出しておくといいです。というわけで、今やっているDTP作業をblogやWebにどんどん出していく行為は、無駄じゃないんだよーてことですね。


Illustrator 13のPDFが受け入れられない件について。これはやっぱり情報流通ちゃんとしていないから。アドビが未だに製品改善をクローズドな何かに頼っている現状(どうやら、ベータテスターであることの表明できないとか?)、実運用においては、問題あったときの情報の蓄積によって運用対処していくしかない、ていうのは受け入れなきゃいけない。しかし、かつてと違い、蓄積するべき情報が、ユーザ側の運用というよりも、機材ベンダ側の問題になってきている。そうなると、必然、守秘義務がからみ、情報の蓄積が局所的になっている。これが現在起こっている状況。

まったく同じ機材を持っていても、ある業者ではちゃんと出力できて、ある一方では、出力できないと言い張る、というのは、同じ機材を使っているのに、同じ情報を共有できていないからですよね。

だから、CS3-PDFが出力できないぷんすか、ていうのは、お気の毒な機材ベンダとおつきあいしているんですね、と評価する、または、出せないと主張する出力屋さんの力量不足・説明力不足と考えるといいと思います。

投稿 大野 義貴 [DTP] | |

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